日野は震えた声だがきちんと説明してくれている。

「何枚か盗撮写真を送られたり前日の行動を言い当てられたりはしませんでした?」
『はい……』
「申し訳ございません、
恐らくその盗撮写真や行動記録は私が浮気調査の報告として大川に送ってしまったものです。
どんな形にせよ大川に加担してしまったからには、もちろん無償で手助けさせていただきます」
『はい……、ありがとうございます』

 戸惑っているような、安心したような声だ。

「といっても明日の朝10時の時点で彼には警察につかまってもらいます」
『え?』
「貴方にお電話させていただいたのはあくまで実態の確認でして。
今から言う番号に送られた写真や手紙をFAXで送っていただけますか」
『はい、わかりました』

 ……まったく、めんどくせえ事件に巻き込まれたな。

 次々と送られてくるFAXを茶封筒に入れながらため息をつく。
全て受け取り終わると携帯電話を手にとって、
メモリーいっぱいのアドレス帳から“花菱省吾”を選択して発信する。

『花菱だ』

 2度目のコールで出たしわがれた声の男。酒やけか怒鳴り癖が原因だろう。

「お世話になってまーす、宮沢です」
『ぬうんっ? またお前か!』
「またですいませんねー」

 電話口はざわざわと騒がしい。

「……忙しいです?」
『ふん、どうせまた事件でも嗅ぎつけたんだろ』
「またまた言わないで下さいな」
『まあ、こっちもお前には助けてもらってるからな! して、要件はなんだ!』

 周りがうるさいからか、
花菱が怒鳴るような大声で話すので宮沢は携帯電話を耳から遠ざけながら話す。

「――……というわけで、明日の朝10時に大川が現れるので逮捕お願いします」
『ぬん! 了解した!』
「俺ちょっと用事あって行けないのでよろしくお願いします」
『この花菱にまかせてお』

 花菱の大声が最高潮に達したので思わず切ってしまった。
気を取り直して今度は日野に電話をかける。

「もしもし、宮沢です」
『はい』
「先ほどいただいたFAXは今日中に警察に持っていきますね。それでFAXの用紙代なのですが……」
『ええ! いえ、いただけません!』

 日野は大声で拒否するが、こちらは綺麗な声だ。

「いえ、少しくらい償わせてください。
……と言っておきながら申し訳ないのですが、明日から3日間事務所を留守にするんですよ。
なのでそのあとでもよろしいでしょうか?」
『ええ、私も留守にするので丁度良いくらいです』
「よかった。それでは、逮捕の連絡がくるまではお気をつけてくださいね」
『はい! とても助かりました。ありがとうございます』

 電話を切ると時刻は夜11時を回っていた。

 警察に行って帰ってきたら深夜になるな……。
まあ、なんにせよ明日からは慰安旅行だし良いか。今思えば、あのじーさんも良いものくれたな。

 宮沢は大きなのびをして壁にかけておいた車のカギを取った。












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