「ちょっとばかし惜しいがな」

 花菱は少し得意気な顔になって正解を教えようとしたところで宮沢に割って入られる。

「じゃあ闇金融ですね」
「……なーんでわかんだよ」

 花菱は宮沢に顔を近寄せて、並びの良い歯を悔しそうに軋ませる。

「依頼金が全部ピン札だったし金の羽振りが良かったから。で、その闇金融は潰せたんですか?」
「見つかりもしねえ。お前の言うとおり大川は脅されて使われただけだったよ」

 全て言い当てられた花菱は降参したようで、しわをよせていたのをやめた。

「それより秀坊、用事っつってたのは仕事か?」
「慰安旅行という名の独り旅ですよ。先日、依頼者の方からホテルのスイートの宿泊券もらったもので」
「お前が休むなんて珍しいな」

 花菱は心底驚いた表情で言った。
宮沢はほぼ年中無休で探偵事務所を開いており、
依頼も何もない時は伯父の探偵事務所を手伝いに行ったりするほどで、
そもそも休みをとるという概念を持ち合わせていないのだ。

「なんだか高級ホテルらしいし……まあ、たまにはじっくりクロスワードをやるのも良いかなあと」
「慰安旅行でも謎解きしてたんじゃあ意味ねえだろうが」
「脳みそは使わないと衰えますし、クロスワードは趣味です」
「誰に似たんだかよ」

 花菱は大きなため息をついて呆れるが、
宮沢はそんなこともお構いなしに笑顔で花菱のうちわにされている茶封筒をつつく。

「強いて言うならば伯父ですよ。じゃあ今日は失礼しますね。明日よろしくお願いします」
「ぬうん、まかせとけ」

 相談室に戻る花菱さんに軽く手をふって警察署を出ると、すぐ近くに停めておいた車に乗り込んだ。
きついミントのガムを噛みながら事務所まで戻り、明日からの慰安旅行……もとい独り旅の準備をして眠りについた。














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