*ケーキとコクハク*

 
 石狩から札幌の西区に向かうスクールバス。
同じ制服の集まりの中で静かな長い時を過ごす。
 冬の間は寒々しい白ばかりが目に入っていた窓の外が、
既に懐かしく思うほど暖かい陽気が続いている。

「ね、もえっち」

 通路をはさんで隣に座っていた女の子に声をかけられる。
去年まで同じクラスだった塩野加奈さんだ。大の噂好きで知られる。


「あれ見てよ」

 塩野さんの指をたどると5つ前の座席には金髪の女の子。
いくら陽気が続いているといってもまだまだ寒さの残るなか、
全開にした窓から吹き込む風に吹かれている。

「寒そう」
「河名しゃんよー」

 名前を聞いて、少し驚いた。
河名さんは学年……いや、学校で知らない人はいない有名人。
1年生前半にはクラス室長も務めた優等生だったのが、
後半頃に突然豹変し、不良の道をまっしぐらに進んでいる。

「あれ、でも河名さんて石狩だったんだ?」

 スクールバスに乗っているのは初めて見た。

「いつもは大澤様のバイクで登校してたんだけどー……。
その大澤様、昨日交通事故にあったらしいのよー」

 大澤君は河名さんの彼氏で、
河名さんが不良になったのも彼の影響だといわれている。

「え、死んだの!?」
「死んではないけど、かなりヤバっちい状態みたい」

 ……バイクに乗ってる気分なのかな。

 心なしか寂しげな後ろ姿を見て気付く。
好きな人が危ない状況に、不良も優等生もないんだと感じる。

「でもさあ、正直同じクラスの身としては助かったって感じかにゃー」
「え?」
「大澤様がいると空気はりつめるし、しんどいのよー。
なーんかウチのクラスってば治安悪くて。大澤様と河名しゃんで類友状態?
ちりばめられた不良様方、休憩時間の度に大集合すんのよー」

 塩野さんは大きなため息をつきながら愚痴をこぼす。
河名さん達には申し訳ないけど、同じクラスじゃないことを幸いに思ってしまう。

「バスまで類友状態になっちゃったらカナ、ママちゃんに車出してもらおうかな」
「さすがに朝から石狩までこないべさ」
「どうする? 来るかもよんっ?」
「うーん、嫌かもしれない」

 話しているうちにバスは校門をくぐり敷地内にはいる。
バスから降りて、そのまま塩野さんと話しながら階段をのぼっていった。

「したっけまた帰りねー」

 3つ先の教室の前で跳ねる塩野さんに手を振り、自分の教室にはいった。

 GW明け、初めての学校……。
ど真ん中で机に伏している彼を見ると、心臓に鈍い痛みを覚える。

「……、……。――……、おはよ」

 自分でも聞こえるか聞こえないかというくらいの小さな声しか出てこない。
それでも彼は目を覚ました。

「ん、佐倉さん……おはよ」

 大好きな枯れた声に、のどが熱くなる。

「GW……」

 ――一緒に来た女のひとって、誰?

「……来てくれてありがとね」

 聞けるわけがないその問いを、熱いのどに押し戻す。

「おいしかった。でも、忙しそうだったね」
「店長出血のクーポンのおかげでね」
「あはは」

 ふにゃっと顔をほころばせる彼。大好きなこの笑顔が今は辛い。

「俺達のところに来たのってキッチンのひとだよね? 相当忙しいんだなって思った」
「え?」
「ほら……背の高い、綺麗な顔のお兄さん。ここの先輩だって言ってたけど」

 平岡先輩だ……。
そっか、あの時平岡先輩が運んでくれたんだ。

「うん、すごく優しい先輩だよ」

 話をしていて、鼓動が速くなっていくのがわかる。
告白をしてちゃんとふられようと決意したものの、
確実にふられるのをわかっていながら言うのはせつない。

「そんな雰囲気だったかも」

 それに、机にうなだれたままの状態で聞いてほしくなくて、
なかなか言い出せない状況に焦ってしまう。
どうせふられるのはわかっているけど、それでもちゃんと聞いてほしくて。

「ね……あの、……さ」

 声が裏返ってしまう。自分が緊張していることに、さらに緊張してしまう。

「ん?」
「その、好きな人……」

 言いかけた次の言葉が、のどのところでつかえる。

「……って、一緒に来た、女のひと?」

 聞いた後、沈黙が流れる。

「あ、待って! ちょっと、待って。やっぱり答えないで」

 目を丸くしてこっちを見る彼の口が動こうとしたのを止める。
この問いにうなずかれてしまったら、告白なんてできようもないことに気付いたから。

「……ごめん……、ちょっとアタシ変だ」

 妙な態度、妙な空気。
私が何をしたいのか、何を言いたいのかを気付かれてる。
そんな雰囲気が恥ずかしくて泣き出しそうになる。
 机にひっついていた上体を起こした彼が、こちらに向いて座りなおす。

「なした……?」

 きっと、わかっているのに訊ねてくれたんだと思う。
ちゃんと答えてくれようとしてくれてるんだと思う。

「アタシ……、春日部が好き」

 ……怖くて、彼の顔を見ることができない。

「うん。ありがと……、……ごめんね」

 彼の答えで心の痛みと、のどの熱さがすっと消えた。

「ううん、ちゃんと聞いてもらえてうれしかった」

 自然に笑顔が出た自分に自分で驚いた。……何故か、辛くないのだ。
あんなに緊張したのに、ふられたのに辛くない。それどころかスッキリした気分だ。
その違和感の原因を考えても考えても答えがでない。



「おはようございまーす」

 外に面した裏口からカフェにはいる。
休憩室にある自販機横の狭いスペースに設置された長椅子に落ちそうになりながら眠る平岡先輩。
バイトに遅れても困るので、ひとまず着替えてから話しかける。

「平岡先輩? バイトの時間ですよ」

 腕を組んでぐっすりと眠っていて、まったく起きてくれない。

「ひーらーおーかーせーん……っ」

 突然腕をつかまれて心臓が口からでてきそうになった。

「あと5分寝る」
「したっけ遅刻しますってば」
「嫌だ、無理。眠い」
「もー! 店長呼んじゃいますよ!」

 平岡先輩は渋々眠い目をこすりながら起き上る。
Yシャツがはだけて胸板が見えるのに、目のやりばをなくす。
ぼんやりとして、目は開いてるのかすら微妙なほど。

「ピアスはずしてー」
「何甘えてんですか。はい、早く着替える!」
「んー」

 と、その場で脱ぎだす平岡先輩。

「ちょ、ちょっと!」
「見ないでエッチ」
「もう、めんどくさい人ですね!
ちゃんと更衣室行って着替えてくださ……」

 ……平岡先輩が枕にしていたのはカフェの制服だったようだ。

「最初からここで着替える気満々だったんですか」
「佐倉が落ち込んでるだろうから、俺の肉体美をみせてやろうと思ったのに」
「落ち込んでないし、見たくないです!」

 先輩を長椅子のすぐ横にある更衣室に追いやる。
そこでまた違和感の原因を考えてしまう。

 ほんとは春日部のこと、そこまで好きじゃなかったのかな。
でも彼女さんを見たときはすごい悲しかったのに。
告白するときは震えるくらい緊張したのに。
なんで――……

「ほんとに落ち込んでない?」
「わっ!」

 後ろからささやかれてびっくりしてしまう。
振り向くと目と鼻の先に平岡先輩の顔。
 少し茶色がかった瞳と長いまつげ。すじの通った高い鼻に、薄い唇。
こんなに近くで見ても毛穴が見えない絹素肌。改めて、そこにある綺麗な顔に見惚れる。

「そんなに見つめられると俺照れちゃう」
「……」
「あ、そんな顔しないで」

 いつもふざけてばかりだから、この人が格好良いことを忘れていた。

「はい、いちごあげる」

 GWの混雑はいったいなんだったのか、店内は2組の常連さんだけだ。
ひまをもてあました平岡先輩はつまみ食いに走る。

「怒られますよ」
「どうせ今日はこのまま暇だべ。
廃棄になるくらいなら俺たちに食べられたいって、いちごは言ってるよ」
「ほんとに、平岡先輩だったら理由を見つけるのうまいですね」
「……こないだはあーんなに乙女だったのに」

 私の口にいちごを押しつけながら、文句をたれる。

「うるさいですよ」
「ま、元気ならいっか」

 そう言って私の口でいちごを押しつぶしながら、
いたずらっこのような無邪気な笑顔を見せた。

「ちょ、汚い!」
「おま……! いちごに謝れ!」
「先輩がアタシに謝ってくださいよ!」
「あははははっ! ナイスだわ、それ」
「笑いごとじゃないですよ!」

 なんて言いながら、ついつい笑ってしまう。

 普通、人の口にいちご押しつけてつぶすか?

「先輩だって、こないだはあんなにまじめだったのに」
「だって佐倉が元気ないと調子くるうんだもん」

 ――……っ!

 先輩の言葉に照れたのか驚いたのか、心臓がきゅっと締め付けられた。
 ……ときめいてしまった。
それでわかってしまった、違和感の原因。

 アタシ、先輩の事好きなんだ……。
こんなアホらしいことしてて気づくなんて。

「ば、馬鹿いわないでくださいっ! こっぱずかしい!」

 休憩室に逃げ込んで、落ち着いて考える。
考えて……自分の気持ちが既に平岡先輩に向いてるのを認識してしまった。
それと同時に、罪悪感といったらいいのかわからない気持ちが頭をめぐる。

 ついこないだまで春日部が好きで、今朝失恋したばかりなのに、
もう次は平岡先輩が好きだなんて、馬鹿はアタシだ。
 でも、きっとあの夜には平岡先輩を意識してたんだ。
あの時にはもう、ときめき始めてたんだ。

 出た、気付いた答えが更に混乱させる。
もうどうしたらいいのかわからなくて、
そのあとのバイトは抜け殻のようになってしまった。



 ――……眠れなかった。

 考え混むと眠れなくなる体質の改善ができるなら取り組みたい。
 ぼんやりとした視界に留まったスクールバスに乗り込む。
既にほぼ満員状態となったバスに、空席を見つける。

「隣、いいですか?」

 話しかけて、目が覚めた。

 か、河名さん……。

 河名さんは足を組んで窓の外を見ていたが、私の声で振り向く。

「別にいいけど、アタシ窓開けるよ」

 鈴が鳴っているような可愛い声に、また驚く。
突き放すような言い方ではあるものの、
座席に置いていたカバンを自分の足元に投げる河名さん。

「あ、はい。ありがとうございます」
「……別に敬語じゃなくたって殴ったりしねえよ」

 覇気がなくそっけない物言いが、
先ほどから言ってることとやってることに似合ってない。
 それから何人かがバスに乗り込むと、ゆっくりと走りだした。

「おい」
「は、はい!?」
「寒くねえか?」
「あ、大丈夫……」
「だったらいい」

 噂ばかり聞いて怖い人だと思っていた河名さん。
昨日、同じクラスじゃなくてよかったと思ったことを少し反省してしまう。

「……あの、大丈夫?」
「何が」
「大澤君」

 眉をひそめて、泣きそうな顔で睨まれる。

「あ、ご、ごめんなさい」

 思わず殴られるのを防ぐ。

「大丈夫なわけねえだろ!!」

 突然、大粒の涙をあふれさせる彼女。

「翔太っ……翔太、アタシを迎えに来てくれてる途中だったんだよ」

 自分から聞いておいておきながら、いきなり泣かれて動揺する。

「まだ、目え覚まさねんだよ……。
どうしよう、このまま一生起きなかったら……っ!
アタシ、翔太がいないと生きてけねえのに、どうしよう」

 いつも完璧メイクの河名さんがノーメイクなのが、大澤君への思いを物語っている。

 河名さん、大澤君のこと大好きなんだ。ほんとに、ほんとに大好きなんだ。
 一途な河名さんがうらやましい。なんて素敵な思いなんだろう。

 隣で泣きやまない河名さんを慰めながら、
自分の気持ちの移り変わりの早さに胸を痛ませた。
 しばらくしてやっと泣きやんでくれた河名さんと教室まで向かう。

「泣いちまって悪かった。話聞いてくれてありがとな。
親も周りも腫れものに触るような扱いしやがって……、
誰にも相談できなかったんだ。まじで、ありがと」

 にっかし豪快に笑うと、
窓が割れんばかりに勢いよくドアを開けて教室に入って行った。

 自分の教室に向かおうとすると、
廊下の一番奥、3年生の教室の方から平岡先輩が走ってくる。

「ターッ、クル!」

 そのままの勢いで抱きつかれる……というか飛びつかれる。

「おっはよ、佐倉っ!」
「おはようございます……」

 人が悩んでいるというのにこの人は……。

「やっぱさあ、ケーキ必要じゃね?」

 急に真剣な顔つきになる。

「ふられたことは、もう大丈夫なんです」
「そうなの? じゃあなして落ち込んでんのよ」

 片方の眉だけ器用にあげて、困った顔をする。

「もー! 佐倉が元気じゃないと俺やーなーのっ!」
「なんでですかっ」
「うわ、それ聞く? 聞いちゃう?」
「……くだらなそうなんでやめときます」
「冷たいっ!」

 心配して、優しくしてくれる平岡先輩。
悩みとは裏腹にもっと好きになっていくのが自分でわかるのが苦しい。

 ふと視線を感じてそちらを見ると、数人の女の子が睨んでいる。
コソコソとなにやら話しているのはたぶん私の悪口だ。

「……先輩放して」
「えー、やだー」
「放してってば!」

 急にはずかしくなって、先輩の腕をふりほどいて後悔した。

「佐倉?」
「あ……ごめんなさ……」
「やっぱ今日はケーキ作るかんな。ちゃんと食えよ」

 笑顔でそう言い残して、自分の教室のほうに走っていく。
少しくらい怒っても良いのに、優しいままの平岡先輩。
心配している先輩を裏切っているような悩みに、また心が痛んだ。

 教室に入ると、春日部が起きていた。

「あれ、珍しい」
「佐倉さん達が騒ぐんだもん」
「うわ。ごめんね」

 柔く笑う春日部。もうこの笑顔を見ても普通だ。

「……春日部」
「ん? なした?」
「アタシさ、つい昨日春日部に告白したくせに……、
平岡先輩の事好きになっちゃったみたい」

 突然の相談に驚く春日部。
それでも、真剣な話は真剣に聞いてくれる。

「また、なんでいきなりそうなったの?」
「あのね、ほんとは春日部にふられるのわかってて……というか、
ふられるために昨日告白したの」
「あー、それはなんとなくわかった」
「GWに彼女さん見ちゃったしね。そんときに平岡先輩がなぐさめてくれて。
今思うと、春日部に告白しときながら……平岡先輩のことが好きだったんだ」

 春日部は優しく笑う。

「いーんじゃない、それでも」
「そんなのっ」
「今更だと思ってるなら、そんなの関係ないよ。
俺は彼女と初めて会った時説教されて、めんどくさい奴だと思った。
でも、いつのまにか好きで好きでどうしようもなくなってた。
それに気付いた時には、散々うざいだの消えろだの言ってたあとだった。
でも、ちゃんと真剣に伝えればちゃんと応えてくれた」

 それでも、と困惑する私に春日部はほほ笑む。

「大事なことは何?
ついこないだまで俺を好きだったこと?
それを相談してたくせに今更ってこと?
……俺は、今自分が感じてる思いが一番大事だと思うけどな」

 改めて、やっぱり春日部の雰囲気を好きだと感じた。
それは恋愛というよりも人としてだ。
こないだまで好きだったのは確かに恋愛だった。
 でも、今自分が感じてる思いは――……

「アタシもそうかも」
「うん。頑張ってね」

 平岡先輩が好き。


「萌花!!」

 昼休み、けたたましい音をたてながら河名さんが教室にはいってくる。
さわやか3組が一瞬にして凍りつく。

「翔太目ぇ覚ました!!」
「ほんと!?」

 河名さんの右手に握られている携帯が軋む音がする。

「おう、もうフケて病院いくけど萌花どうする!」
「い、いかないよっ。大澤君がまってるのは河名さんだよ」

 もう、これ以上ないくらい幸せそうな
しまりのない笑顔で照れる河名さん。

「萌花ってほんと良い奴っ!」

 力強く抱きしめられて、息がとまる。
ふと、力を緩めたかと思うと耳元でささやく。

「今朝、平岡と話してたみてえだけどよ」
「え、見てたの」
「いいや、その遠くでメンチきってる女どもにメンチきってた。
なんかしてくるようならあいつらシメてやっからよ、言えよ」
「う、うん……」

 ……大変心強すぎる人を味方にしたようだ。

「したら、行ってくんわ!」
「うん、いってらっしゃい」

 その後、遠巻きに怯えていたクラスの人たちから
質問攻めにあうのも無理はなかった。



「平岡先輩」

 自分の教室の前を通りかかる平岡先輩をまちぶせしていた。

「お、お疲れー。なしたの?」
「一緒にバイトいこうと思って」
「え、何、待ってたの?」

 嬉しそうに花を咲かせる平岡先輩。このノリが好きだ。
かっこよくてモテるのを鼻にかけないというか気にしていないというか。
ショッピングモール直通の無料送迎バスでも、
近くの女の子達が平岡先輩を見て何やら騒いでいる。

「佐倉、ケーキ何が良いっ?」

 当の本人は女の子のような質問を、女の子のように投げてくる。

「オススメは?」
「いちごのムース! 練乳もかけちゃうよっ」
「じゃあそれがいいな」

 春日部のおかげで、素直な気持ちで話せる。
不思議なものだ。昨日の告白がもうずっと昔のことに思う。



 バイト終了まであと2分。
暇で早上げされた平岡先輩は先ほどまで
上機嫌にキッチンでいちごをすりおろしていた。
いちごのムースよりも平岡先輩に気持ちを伝えるのが楽しみで、
今日は今までで一番のスマイルでの接客になっている。

「佐倉あがっていいよ。なんか平岡がうろついてて邪魔」
「あはは、ごめんなさい。あの人馬鹿ですね」

 店長があきれた様子で上げてくれる。
腰のエプロンをはずして、休憩室にはいる。

「平岡先輩」
「佐倉ーっ」

 飼い主を待っていた犬かのようにかけてくる。

「はい、食べて元気だして!」

 そういった平岡先輩がぴたりと停止する。

「……元気じゃない?」

 真顔でいうものだから噴き出してしまう。

「もう。今更ですか」
「……今更だよな」
「ねえ、平岡先輩。食べる前にひとついいですか?」
「ん?」

 見上げる角度にある綺麗な顔は不思議そうにしている。

「これも今更なんですけどね」
「うん?」
「アタシ、先輩のこと大好きになっちゃったみたいなんですよ」

 今度は銭湯で桶を落とした時の音が似合う顔。
それから、タコのようにみるみる赤くなる顔。

「は!?」

 平岡先輩は、もう百面相。

「それ、本気!?」
「じゃ、いただきまーす」
「あ、どうぞ。じゃなくて、ちょっと、佐倉っ!?」

 答えは聞かなくても、わかっちゃう。
優しい先輩。明るい先輩。可愛い先輩。

「俺は前から大好きだったーっ!」

 ――……大好きな、先輩。

*ケーキとコクハク*