テレビをつけると時刻は8時、10秒前。宮沢が新聞のテレビ欄を広げようとした時、
テレビから時報に似た高い音を鳴らして人気のお笑い番組が始まった。

「なんだよ、びっくりさせんな」

 そうぼやきつつも新聞をマガジンラックに戻した。
冷蔵庫の横のフックに掛けた買い物袋からカップ麺を1つ選んでポットでお湯を注ぐ。
反対にある食器棚の引き出しからとった箸とレンゲをカップ麺と一緒に円卓まで慎重に運ぶ。
あぐらをかくとすっぽり足が収まる程小さな円卓だが、一人暮らしには丁度いいぐらいだ。
 後ろのベッドから奪った布団をかぶってテレビを見始めた。

『白井君はこの番組見たことあるー?』

 関西弁の司会者に話をふられたのは、
ここ数年でドラマや映画に多数出演して知名度を上げた、実力派若手俳優といわれている白井陽平だ。

『はい、いつも友達と見てます』
『うそや! 白井君そんなんちゃうもん! 友達ってだれや!』
『見てますって。相内純とか、よく一緒に見てますよっ』

 司会者のつっこみに笑いながら応える白井。
宮沢は3月に終了した白井主演のドラマにはまっていたこともあり、
CMで白井が出ている時からこの番組をみるつもりでいた。

『純君!? モデルの子やんなあ、笑ろてくれとる?』
『あはは、はい、彼なりに』
『クールそうに見えて意外とお笑いとか見んねんなあ』

 相内純というモデルの写真が画面左下に出たが、いまいちピンとこない。
宮沢が白井を覚えていたのはその演技力に興味を持ったからで、
関心のない物や人を覚えるのは苦手なのだ。

 次々と漫才やコントが披露されて、あっというまに番組は終了した。
流しでカップ麺の容器を洗ってから捨てて、気だるそうに洗面所に向かった。
 数年前から愛用しているつぶ塩入りの歯磨き粉を電動ハブラシにつけ、
増えてきた目元のしわを鏡で見ながら歯を磨く。

「若さが足りてねえなあ」

 小さくため息をつきながらつぶやいて洗面所を後にした。

「明日は……」

 壁のはりにハンガーでかけたスーツの胸ポケットから手帳をとりだして予定を確認する。

「14時にミスドで面会……浮気調査ね」

 手帳をしまうと、スーツに抗菌・消臭スプレーをかける。ほんのりと薔薇の香りがつくものだ。
加齢臭が漂っているかもしれないという不安から、宮沢が近くのスーパーで30分かけて選んだ逸品である。
 明日の朝の準備を完了させると頭をかきながら布団にもぐり、目覚ましを6時に設定してようやっと眠りについた。









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