車のシートに消臭剤を吹きかけてから乗り込む。
降りる時も乗り込む時も消臭剤を吹きかけなくては気が済まないのだ。

 事務所から警察までは車で20分程かかるが、カーナビに頼らずに行けるほど通い慣れてしまった。
先ほど花菱も言っていたように、宮沢は何度も警察のお世話になっている。
……といっても善良市民として情報提供をしているのだ。
事務所に来た依頼をこなすうちに違法行為や犯罪行為を見つけてしまうことは
穿鑿家である宮沢にとってまるで珍しいことではない。
それを面倒くさいと思っても放っておけないのは正義心だろう。

 宮沢はすっかり慣れた様子で警察署に入る。
深夜だというのに警察官や補導された少年らでざわついている。

「花菱さーん」

 相談室の入口の前に居た花菱を呼んだ。

「ぬうんっ!」

 花菱は宮沢を見降ろすようにして仁王立ちする。
192センチの長身に鍛え上げられた筋肉質な身体で遠くからでもすぐに目に入って来てしまう。

「待ってたぞ!」
「そんなおっきい声じゃなくても聞こえますよ。
これがさっき話していたストーカーから送られてきたFAXです」

 黒いブリーフケースからFAXの入った茶封筒を出し、花菱に渡した。
花菱は受取った茶封筒をうちわにしながら宮沢と話す。

「お前が言ってた大川だが、以前にも逮捕歴があってな」
「へえ。喧嘩とか?」
「それなら可愛いもんだ。銃刀法違反だよ」
「……それ多分大川じゃないですよ」

 宮沢の言葉に眉をひそめた花菱。ずいと顔を宮沢に近寄せて睨むような目で問いかける。

「なーんで、んなこといえんだよ」

 宮沢は条件反射か防衛本能か、一歩退いてから答える。

「大川の手にはつい最近できた傷や古い傷があったんですよ。
あれは頻繁に殴り合いの喧嘩でもしてるんでしょうね。
DVやボクシングなんかのスポーツかとも思っていましたが、今の花菱さんのでわかりました。
チンピラ程度ですが暴力団やらヤクザでしょう」

 大川を馬鹿にするように笑いながら自分の考えを述べた宮沢。それに花菱の眉間により一層しわがよる。

「大方、銃刀法違反っていうのも上の人間の身代わりってところでしょ。
というのも、その手の世界に入ってまだあまり日は長くないようですから。
その手の世界に長くいる人間は俺の知る限り警察の匂いを嗅ぎわけていましたから。
長くいる人間なら俺が誘った時点で気付いて断りますよ。まあ、そもそも探偵なんかに頼らないでしょうね。
もしくは用が済んだ人間とは会う理由をなくしておきますね」
「ふん、あいかわらずだ」

 花菱は口の両端にもしわをよせて不満な表情を見せた。
















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